西アフリカのシエラレオネが、政府システムのブロックチェーン化を目指している。
2018年4月、汚職対策を掲げるジュリウス・ビオ大統領が就任。改ざんがほぼ不可能とされるブロックチェーンを政府のシステムに取り入れる計画を進めている。ビオ大統領は、アフリカで初めての「ブロックチェーン国家」を目指すという。
住民のIDにとどまらず、土地の登記、政府の予算管理システムなど、政府のシステムに幅広くブロックチェーンを取り入れる方向で検討しているとみられる。
シオラレオネのプロジェクトに参加を目指す、日本のスタートアップ企業もある。
「アフリカ発のブロックチェーン国家」目指す大統領
米中央情報局(CIA)が公開しているデータによれば、シエラレオネは人口631万の小国だ。ダイヤモンドの産出で知られるが、1990年代は長期にわたって内戦が続いた。サブサハラ・アフリカの国々の中でも、最も貧しい国のひとつだ。
汚職の撲滅を掲げて政権を獲得したビオ大統領は、ブロックチェーンを用いた政府システムの透明化に前向きな姿勢だという。
大統領官邸の公式サイトによれば、ビオ大統領は7月3日、ウガンダのカンパラで開かれたブロックチェーンのカンファレンスで演説し、次のように述べている。
「政府がわたしたちの国の開発の文脈に特化した国家デジタル戦略を編まなければならないことを、わたしたちは理解している」
指紋と個人情報をデジタルIDとして登録
科学技術イノベーション局(DSTI)の発表によれば、NCRAのデータベースに親指の指紋を登録することで、デジタルIDで本人確認をし、銀行口座の開設にも利用できるという。
DSTIの公式サイトには、デジタルIDで銀行口座をつくった女性が紹介されている。
2019年8月22日付のロイターによれば、ビオ大統領とアメリカのNGO、Kivaがブロックチェーンを基盤とするデジタルIDのデータベースを構築するプロジェクトを発表した。
現在、同国の戸籍登録局(NCRA)が、Kivaなどと連携し、住民のIDのデジタル化を進めている。
Kivaは、サンフランシスコを拠点に、アフリカやアジア、ラテンアメリカなどで、マイクロクレジット(少額融資)のプロジェクトを展開している。
いまも紙とペンで動く政府
日本のスタートアップ企業「レヴィアス」(LEVIAS、東京都港区)は、ブロックチェーンをベースに、シエラレオネの土地の登記のデジタル化を目指している。
同社で取締役を務める河崎純真さんらは、2019年2月にシエラレオネの首都フリータウンに渡航した。
国土計画環境省のシステムを視察したところ、ほとんどが、紙とペンで動いている。
河崎さんは「中央政府と地方政府の情報の連携がまったく進んでおらず、電子化のニーズは高い」と話す。
土地登記の整備は課題
サブサハラ・アフリカでは、土地の区分を整理した公図や、登記などが整備されていない国が多い。
住民間で土地をめぐる争いが起きても、所有権の裏付けになる文書は存在しない。このため、資本力がある大企業や有力者らが、立場の弱い農民たちの土地を収奪する結果になることも多い。
だれが土地や建物の所有者であるかをデジタルデータとして記録すれば、所有権をめぐる紛争の防止にもつながる。
データの処理に時間がかかるといった課題もあるが、ブロックチェーンを導入することで、これまで以上に信頼性が高く、証拠能力の高いデータとして記録することもできるだろう。
ただ、住所がほぼ存在しない国で、土地の区分を整理し、所有者を特定し、登記として記録するには、デジタルでも、紙とペンであっても、膨大な手間がかかる。
レヴィアス社は、シエラレオネ政府との協議を続けている。システムの導入が決まれば、シエラレオネにエンジニアを派遣する方向で準備しているという。
河崎さんは「政府側はシステムの導入にはきわめて意欲的で、複数の企業が、さまざまな分野でブロックチェーンの導入を提案している状況だ」と話している。
Photo by RNW.org, taken on October 29, 2008
参考にした情報
Reuters,”San Francisco crowdfunder Kiva sets up Sierra Leone credit database”, August 22, 2019
https://www.reuters.com/article/us-leone-kiva/san-francisco-crowdfunder-kiva-sets-up-sierra-leone-credit-database-idUSKCN1VB262
Website: National Civil Registration Authority
http://ncra.gov.sl/index.aspx
Central Intelligence Agency “The World Factbook”
https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/geos/sl.html
The Republic of Sierra Leone State House, “President Julius Maada Bio Addresses Blockchain Conference, talks about Africa’s Opportunity to Lead in the Fourth Industrial Revolution”, July 3, 2019
https://statehouse.gov.sl/president-julius-maada-bio-addresses-blockchain-conference-talks-about-africas-opportunity-to-lead-in-the-fourth-industrial-revolution/
The Directorate of Science, Technology and Innovation (DSTI) “Sierra Leone launches e-ID for social and financial inclusion for 5.1 million citizens” August 29, 2019
https://dsti.gov.sl/sierra-leone-launches-e-id-for-social-and-financial-inclusion-for-5-1-million-citizens/
外務省『対シエラレオネ共和国 開発協力方針』(2019年4月)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000072399.pdf