日本人がウガンダで取り組む 宅配サービスのアップデート

東アフリカのウガンダで、バイク便を中心とした宅配サービスに取り組む企業がある。

伊藤淳さんが2016年に立ち上げた、CourieMate(クーリエメイト)だ。

住所がない国で、いかに効率よくモノを届けるか。伊藤さんが取り組むのは、IT技術と、伝統的な人と人とのネットワークを組みわせた宅配サービスのアップデートだ。

「本気で動かないと見えてこない」

ウガンダの首都カンパラでCourieMateを経営する伊藤淳さん。(2019年6月21日、筆者撮影)

伊藤さんとアフリカの縁は、アクセンチュア在籍時にケニアに駐在したのがきっかけだ。

アフリカでの仕事を経験する中で、「世界の中で、一番深刻な問題を抱えているのはアフリカ大陸。そこには、イノベーションの種があるんじゃないか」と考えるようになった。

アクセンチュアを辞め、2014年1月、知人のつてでケニアの東側にあるウガンダに入った。

大企業をやめて起業するまで、2〜3年ほど悩んだ。他社の中途採用に応募したり、周囲に相談したり。最終的には、はっきりしたビジネスアイデアを持たず、東アフリカに飛び込むことにした。

「とくに何も決めずに、すぐに現地に行くのがいいのかなと。本気で動いてみないと、なにも見えてこないから」と伊藤さんは振り返る。

当初、ケニアの首都ナイロビで事業をはじめようと考えていたが、ウガンダの首都カンパラでビジネスの種を探すうち、「最初はウガンダがいいのかな」と感じた。

ナイロビと比べて治安がよく、起業にかかるコストも抑えられる。

「でもこういうのは後から考えた理由でしかなくて、本当のところは、ウガンダにご縁があったというところなのかもしれません」

人材のトレーニング事業からスタート

カンパラでのビジネス環境を知るにつれて、企業で働く人材の育成にニーズがあると気づいた。

失業率が高く、ウガンダ人の人材は余っているのに、企業の中間管理職層は、外国人が占めていた。

企業のマネジメント層を担っているのは、欧米やアジアの人たちだけでなく、ケニア、南アフリカ、エチオピア、ナイジェリアといったサブサハラ・アフリカからの人材だ。

伊藤さんは「ウガンダの人材の多くは、プロとしての働き方ができていないため、サブサハラ域内の人材確保をめぐる競争でも負けている。管理職層にどんどん外国人が入ってくれば、経済的に支配されてしまう。そこにニーズがあるのではないか」と考えた。

アクセンチュア時代の経験を基に、手作りでトレーニングのプログラムをつくった。

基本的なビジネスパーソンとしてのふるまいや考え方を身に着けてもらう内容だ。伊藤さんがつくったプログラムには次のような項目が含まれている。

  • 当事者意識を持つとは
  • 上司に言われずに自分で自分の成長を促すには
  • 周囲の人を巻き込んで事を興すとは
  • 上司、顧客から要望を正確に聞き、相手の期待値をマネージ
  • 仕事を定義し、計画を立て、タスクを管理し、時間を管理すること
  • どのタイミングで、どんな方法で報告をすべきか

1年半ほどの間に、600〜700人ほどを対象にトレーニングを実施した。しかし、事業の広がりに課題があった。

顧客となるカンパラの企業から、トレーニングの報酬を払ってもらうの簡単ではない。伊藤さん以外のトレーナーを現地で育成しようにも、研修の質を維持していくのも難しい。

試行錯誤の末、宅配に進出

そこで、2016年5月に新たに立ち上げたのが、宅配サービスCourieMateだ。

地域と地域を結ぶ物流の仕組みを理解しようと、現地のドライバーと仲良くなって、トラックの助手席に乗せてもらい、移動中に話を聞いた。

資金はないが、バイク便なら、バイク1台とドライバーが1人いれば、とりあえずは始められる。インドメーカーの中古バイクを500米ドル(約5万3千円)ほどで調達した。

しかし、最初の3カ月ほどは、ほとんど仕事がなかった。日本人のインターンにも手伝ってもらって、カンパラの企業数百社に営業をかけた。

そうするうちに、国外のオンラインショッピングサイトから、商品を顧客のところまで運んでほしいという依頼が舞い込んだ。

オンラインショッピングの商品を国外からばらばらに送ってもらうと、多額のコストがかかる。しかし、まとめてCourieMateに送ってもらい、そこから顧客の自宅や会社に届ければ、ぐっと配送コストは抑えられる。

従業員の横領発覚

宅配の仕事が回り始めたと思った矢先に、今度は社内で横領も発覚した。

東アフリカのオンラインショッピングはキャッシュ・オン・デリバリー(代金引換)が主流だ。

ドライバーが商品を顧客に渡す引き換えに、代金も受け取る役割を担う。そのドライバーが、受け取った現金をポケットに入れてしまう。

ドライバーから会社側が現金を受け取る頻度を増やし、ドライバーに会社側がチェックをしていることを伝えるなど、一つひとつ内部の体制を固めていった。

ウガンダで宅配サービスを形にしていくうえでいくつもの困難があるが、そのひとつが住所だ。

都市の大きな通りであれば名前がついているが、住宅が密集する郊外に行くと、それもない。所在地を尋ねると、県の名前が返ってくることもある。

このため、近くの学校など、目印になる建物を手がかりに顧客を探すことになるが、ドライバーは届け先にたどりつくまで、何度も携帯に電話をかけることになる。

日本の大手企業も支援

2019年に入ってからは、配送を管理し、ドライバーの業務をモニタリングするアプリの開発にも取り組んでいる。支援してくれる日本の大手企業も現れた。

ウガンダの宅配サービスをアップデートするうえで、伊藤さんが注目しているのは、キオスクの存在だ。

地方の小さな村を含め、すみずみにキオスクが点在し、コカコーラやスナック、食品や日用品を売っている。

日本のコンビニ受け取りのように、キオスクで荷物を受け取ってもらったり、キオスクを基点にバイク便で顧客の自宅まで届けてもらったりというイメージだ。

将来的には、モデルをウガンダで確立させ、周辺の国々に広げていきたいと考えている。伊藤さんが言う。

「自分のような個人であっても、全国配送という社会全体に影響しうる事業に挑戦できる。ここでは、新しいことに本気で取り組めば、大成功か大失敗かの答えが必ず返ってきます。そこがおもしろさだと思っています」

参考にした情報

CourieMate, CourieMate Company Profile
http://www.couriemate.com/

Central Intelligence Agency The World Factbook
https://www.cia.gov/library/publications/the-world-factbook/geos/ug.html

外務省、ウガンダ共和国
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/uganda/index.html

アクセンチュア採用案内、Spotlight on アルムナイ
https://www.accenture.com/_acnmedia/careers/pdf-4/accenture-alumni-spotlight-ito-jp.pdf