カンヌ映画祭で初の黒人女性監督がグランプリ ”黒人女性監督”が特別でなくなるために。

強い波で白濁した海と潮騒。

日本のどこかの海のようでもあるが、異国の言葉が入り、日差しの下で滑らかな肌の黒人カップルが囁き合う。

映画「Atlantique」(大西洋)のワンシーンだ。

カンヌ映画祭でフランス系セネガル人の監督マティ・ディオップが、グランプリを獲得した。黒人女性として、初めてのグランプリ受賞者となる。

BBCによると、ディオップは初の黒人女性監督として注目されることについて「うれしいけど、少し悲しい」と語った。

「いまは2019年。それで初の黒人女性なんて遅すぎるし、まだそんなことを言ってるなんて」

父はジャズマン、叔父は映画監督

CNNによれば、パリ生まれのフランス系セネガル人ディオップは、アーティストの多い家族で育った。

父のワシスはジャズ・ミュージシャンであり、叔父のジブリル・ディオップ・マンベティはアフリカ映画のパイオニアで1973年のカンヌで国際批評家賞を獲得している。

映画監督になろうと考えたとき、ディオップは自らのルーツであるアフリカを思ったという。自分のルーツを掘り下げるのに映画が必要だったのかもしれない。

映画制作、特に編集作業を精神分析になぞらえる。「たくさんのことが、意識下に合ったものが浮かんで来る」

アフリカから欧州への移民と恋

この映画は恋愛映画であり、幽霊の物語でもある。

恋人がヨーロッパに向けて海へ漕ぎ出すという移民問題を扱いつつも、監督の視線は残された女性たちの傷ついた心に向けられている。

映画の中で登場人物はセネガルの公用語フランス語ではなく、現地語ウォロフ語を話す。監督自身はウォロフ語は話さないが、リアリティを大事にしたかったからだ。

「黒人女性として育ったので、映画に黒人が出てこないのを残念に思っていた。スクリーン上でブラックの人々を沢山見たいの。それがこの映画を作った理由でもある」

海に消えた恋人から届いた携帯メッセージ。
主人公の17歳の少女はカフェで友人に相談をする。
警察の罠に違いないという友人。
恋人からだと言い張る主人公。

(Atlantics (Atlantique) new clip official from Cannes – 2/2)

Netflixによれば、既にこの映画の権利を取得しているとのことで、映画館に行かずともスマホで鑑賞できるようになりそうだ(中国、ベルギー,オランダ,ルクセンブルク、スイス、ロシア、フランスを除く)。

黒人の映画、黒人の女性監督。

珍しさだけでなく、映画そのものをシンプルに楽しむ人が増えるといい。

あらすじ

大西洋沿岸、セネガルの首都ダカール郊外で17歳のアダAdaは若い建設作業員ソレイマンSouleimanと恋に落ちている。

しかし彼女には決められた婚約者がいる。ある夜、恋人は未来を求めて海から国を脱出した。

数日後、アダの結婚式で火事が起こり、謎の熱病が広がった。

恋人がが戻って来たのかどうか、彼女には分からない。

参考情報

Festivalde cannes
https://www.festival-cannes.com/en/artist/mati-diop

“Cannes 2019: Mati Diop ‘a little sad’ to make history”, BBC, May 17, 2019
https://www.bbc.com/news/entertainment-arts-48309524

“Cannes 2019: ‘Atlantics’ director Mati Diop is the first black female contender for the Palme d’Or”, CNN, May 21, 2019
https://edition.cnn.com/style/article/mati-diop-cannes-2019-atlantics/index.html

“NETFLIX ACQUIRES CANNES FILM FESTIVAL AWARD WINNERS “ATLANTICS” AND “I LOST MY BODY””, Netflix, May 25, 2019
https://media.netflix.com/en/press-releases/netflix-acquires-cannes-film-festival-award-winners-atlantics-and-i-lost-my-body

冒頭の画像は、”Atlantics (Atlantique) new clip official from Cannes – 2/2″よりキャプチャした。

筆者のプロフィール

Risa Shimowada:東京タワーの麓でアフリカとメンタルヘルスと色々のごちゃ混ぜカフェBlue Baobab Africa ブルー バオバブ アフリカをやっています。アフリカや本、語学にも興味があります。