アフリカからの留学生受け入れ “安倍”イニシアティブ真の活用法

「最後のフロンティア」と呼ばれるアフリカ大陸に世界の注目が集まっている。

各国は、2000年以降に続々とアフリカ支援会議を開催してきた。2019年7月20日付の日本経済新聞によれば、中国は7回、EUは5回、韓国は4回、インド3回。2014年には米国も初めて開催し、ロシアも2019年10月に「ロシア・アフリカサミット」を開く。

日本は各国にはるか先立つ1993年に初の「アフリカ開発会議」(TICAD;Tokyo International Conference on African Development)をスタート。2019年8月末には、第7回を横浜で開催する。近年は、アフリカ側からも「支援から投資・ビジネスへ」という潮流もあり、これは日本の民間企業にとってもアフリカに参入するビジネスチャンスでもある。

2013年に開かれた第5回「アフリカ開発会議」(TICAD V)では、安倍晋三首相による冒頭スピーチで「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ『修士課程およびインターンシップ』プログラム」(African Business Education Initiative for Youth;ABEイニシアティブ)が表明された。これまでにアフリカ全54か国から1,200人を超える若者が来日している。

ABEイニシアティブの狙いとは

ABEイニシアティブの狙いとはなんだろうか。

JICAウェブサイトには、「プログラムを通じて、アフリカにおける産業開発に資する日本とアフリカの間での人脈が形成され、日本企業がアフリカにおいて経済活動を進める際の水先案内人として活躍することが期待されます。」とある。

日本企業は、アフリカ市場に参入するための経営リソース――ヒト、モノ、カネ、技術、情報――のうち、製品・資機材、資金、技術を持っているかもしれない。しかし、人材や情報のネットワークがなければ参入を躊躇(ちゅうちょ)せざるをえない。アフリカ人留学生のネットワークは、これを補完してくれるのである。

優れた現地人材をつかめ

筆者は現在、日本企業とアフリカをつなぐコンサルタントをしている。

初めてアフリカで仕事をしたのはほぼ10年前だったが、とても苦労したことを覚えている。組織のマネジメントが日本での感覚では全く進まないのだ。時間どおりに集まらない、約束したとおりに履行されない、などなど。幸い、現地人の相棒が優秀で、二人三脚でようやく回っていた感がある。よく、海外進出においてはパートナー探しが大事だと言われるが、全く同感である。優れた現地人材、そのネットワークをつかむことが肝なのだ。

ABEイニシアティブで、アフリカから多くの留学生が来日することになった結果、知日派・親日派のアフリカ人留学生ネットワークが形成され始めている。彼らのKakehashi Africaという同窓会組織はケニア・ナイロビに本部を設立し、アフリカ大陸の東西南北および中央の5地域支部を設置して全域をカバー。さらに日本にも支部を置き、窓口がある。母国に戻った彼らのネットワークは、民間セクターのみならず現地政府の官僚や大学等の高等教育機関に及んでおり、現地の最新の情報にアクセスできる。

「右腕」候補の供給源

また、彼らは日本でビジネス関連分野の修士を取得し、日本企業でのインターンシップを経験している知日派・親日派人材だ。そのような人材は、日本企業にとってアフリカビジネス参入の強力なサポーターになる。ある者はコンサルタント、エージェントとして起業し、日本企業の進出を支援する。日本企業が現地拠点をもつに至れば、現地マネージャー人材、あるいは日本人マネージャーを支える右腕人材の有望な供給源ともなる。

ABEイニシアティブ人材とのマッチングは、日本国内でもまたアフリカ各地でも、すでに開催されている。そして、この8月末の第7回「アフリカ開発会議」(TICAD 7)でもサイドイベントが開かれる。

サイドイベント

・8月27日(火) 15:30~17:00
 「アフリカビジネスプラットフォーム ~アフリカの若者が支援する日本企業のアフリカ進出~」(於 パシフィコ横浜展示ホールB07)
・8月28日(水) 16:30~18:15
  「ABEイニシアティブを通じたアフリカと日本の懸け橋-日本企業のアフリカでのビジネス促進に向けて-」(於 ヨコハマ グランドインターコンチネンタルホテル「ラヴェラ」)

また、パシフィコ横浜にて併催される「ビジネスEXPO」においても、JICAブースでメンバーをつかまえることもできる。

イベントに限らず、ぜひ彼らと直接話す機会を持ってみてほしい。

プロフィール:伊藤正芳
MBA取得後、2010年に青年海外協力隊でアフリカ・マラウイへ。その後、民間企業からNGO、JICAを経て、現在アフリカビジネスコンサルタント。日本企業のアフリカ進出を支援している。
ito_masayoshi@msn.com

Picture by Simon Davis/Department for International Development, “Golden opportunities in Ethiopia”, taken in Addis Ababa, Ethiopia, March 21, 2013.

参考にした情報

◎2019年7月20日付 日本経済新聞「乱立するアフリカ支援会議 ロシアも10月に初開催 8月末にTICAD」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47549400Z10C19A7EA3000/

◎外務省ウェブサイト「TICAD V開会式・安倍総理オープニングスピーチ」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000005502.pdf

◎外務省ウェブサイト「TICAD VI開会に当たって・安倍晋三日本国総理大臣基調演説」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/afr/af2/page4_002268.html

◎JICAウェブサイト「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)『修士課程およびインターンシップ』プログラム」
https://www.jica.go.jp/africahiroba/business/detail/03/index.html

◎Kakehashi Africaウェブサイト
https://www.kakehashiafrica.com/

◎NHKワールドウェブサイト「The Road to TICAD7 Africa and Japan: Partners in Development」
https://www.jibtv.com/programs/ticad7/

◎JICAウェブサイト「ABEイニシアティブ 東アフリカ・ビジネスネットワーキングフェアを開催しました!」
https://www.jica.go.jp/kenya/office/information/event/180607.html

◎日本国際協力センターウェブサイト「第7回アフリカ開発会議(TICAD7)のサイドイベントを開催します」
https://www.jice.org/info/2019/07/post-289.html

◎JICAウェブサイト「ABEイニシアティブを通じたアフリカと日本の懸け橋-日本企業のアフリカでのビジネス促進に向けて-」
https://www.ticad7.jica.go.jp/event-14/