デフォルト繰り返すアルゼンチン、経済の混乱続く

アルゼンチン経済の混乱が続いている。

2019年8月11日に投開票された大統領選の予備選で、マウリシオ・マクリ現大統領が野党候補に大差で敗れたのをきっかけに、ペソが急落。8月28日には、短期国債の返済期限を延長すると発表した。

この発表を、市場は「選択的デフォルト(債務不履行)」と受け止めた。8月30日に入ってアルゼンチン政府が短期国債を返済したが、政情の不透明感から、デフォルトの可能性も消えていないとみられている。

9月2日付のロイターは、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで、銀行の前に預金の引き出しを求める人たちの長蛇の列ができたと報じている。米ドルの購入が月1万ドル以内に制限されたことが、きっかけだという。

大統領選本選の投開票は10月27日。すくなくとも選挙結果が判明するまでは、混乱が続きそうだ。

予備選で現大統領大敗、ペソ急落

現在のマウリシオ・マクリ大統領は、2015年12月に就任。与党連合「変化とともに」に所属。中道右派と位置付けられ、市場を重視するとされる。8月11日の予備選では、得票率が約32%にとどまった。

一方、野党候補のアルベルト・フェルナンデス候補は、ペロン党急進派の政党「すべての戦線」に所属。中道左派に位置付けられる。約48%の得票率を獲得し、マクリ大統領に15ポイント以上の差をつけた。

選挙結果を受け、翌日からペソが暴落。その後に実施された短期国債の借換入札では、借換率が5%にとどまった。

この借換入札は、満期を迎える短期国債の返済に必要な資金を調達するため、新たな国債を発行するものだ。マクリ大統領の予備選での敗北後、アルゼンチンは市場から国債の返済に必要な資金を調達することが難しくなったことを意味した。

8月28日、アルゼンチン政府は、短期国債の返済期限の延長を発表。個人が保有する短期国債は満期に全額返済するものの、法人が保有する短期国債については、最大で6カ月間、返済を延長する内容だった。

この決定を受けて、格付け会社S&Pは、ペソ建て債務と外貨建て債務の格付けを「選択的デフォルト」に引き下げた。

その後、政府が満期を迎えた国債を返済したため、アルゼンチンの格付けは引き上げられている。

政治と経済の混乱で、インフレ率の上昇が予想されることから、アルゼンチンの人たちは、銀行の預金を引き出す動きを強めている。

価値の下落が予想されるペソを抱えておくよりも、米ドルの保有を望む人が多いことを受け、政府が米ドルの購入を月に1万ドル以内に制限したためだ。

有権者は野党候補、市場は現大統領を支持か

2015年の就任当初、マクリ大統領への期待値は高かった。保護主義の傾向が強かったペロン党の政権から、市場重視、経済の自由化の推進を掲げたマクリ大統領に期待が集まったからだ。

当初の期待はしぼみ、アルゼンチンの有権者は予備選で、左派政権への回帰を選んだ形だ。マクリ大統領が、目立った成果を上げられなかったことが要因だと指摘する報道もある。

10月の本選は、アルゼンチンの有権者のほぼ半数がフェルナンデス氏を支持し、「市場」を重視する人たちはマクリ大統領を支持する構図とも言える。

本選に向けて、現大統領側の巻き返しも予想されるが、15ポイントの差をひっくり返すのは簡単なことではない。

現政権は、国債やIMF(国際通貨基金)からの融資の返済に必要な資金の調達にも苦しんでいる。

アルゼンチンは、過去にもデフォルトを繰り返した。2001年のデフォルト後は、長く経済の低迷が続いた。

予備選を受けた市場の反応は、野党フェルナンデス氏が大統領選に勝利すれば、アルゼンチン経済の混乱も続く、との予測に基づくものだろう。

大統領選は、フェルナンデス氏とマクリ大統領の2候補にほぼ絞り込まれた。両候補が混乱する経済について、どのような対応を打ち出すかも注目される。

Photo by Mariano Pernicone, taken on September 13, 2008.

参考にした資料

Reuters, “Argentines wait at banks to withdraw cash as currency controls kick in”, September 3, 2019
https://www.reuters.com/article/us-argentina-economy-deposits/argentines-wait-at-banks-to-withdraw-cash-as-currency-controls-kick-in-idUSKCN1VN220

S&P Global Ratings
https://www.standardandpoors.com/en_US/web/guest/home

Andrew Cummins, “Argentina’s political uncertainty is stoking financial fears”, Financial Times, September 4, 2019
https://www.ft.com/content/f31bf0fc-ce3f-11e9-b018-ca4456540ea6

紀井寿雄「アルゼンチン予備選挙、マクリ大統領が大差で敗れる」『ビジネス短信』(日本貿易振興機構)、2019年08月13日
https://www.jetro.go.jp/biznews/2019/08/58b455fe3957d0ac.html