ICT(情報通信技術)立国を掲げる中央アフリカのルワンダは近年、先進各国からも投資先として注目を集めるが、都市と農村、あるいは富裕層と貧困層の格差は大きい。
沖縄県読谷村の高校生山田果凜さん(19)が率いるグループが、ルワンダの伝統工芸品の普及を通じて、アフリカと日本をつなぐ取り組みを始めている。
このグループが実施したクラウドファンディングでは、5月5日までに120万円を超える資金を集めた。山田さんが、プロジェクトに込めた思いを話す。
「ルワンダと日本とつなぐことができたら、先進国と後進国が交われたら、もっとたくさんの人をを救えるんじゃないか」
牛の糞でつくったアート
プロジェクトが生まれたきっかけは、2020年2月から3月にかけて、神戸市がルワンダの首都キガリ市で実施した起業体験プログラムだ。
2週間のプログラムには、18歳の高校生から50代まで幅広い世代の人たちが参加し、ルワンダの社会課題の解決につながるビジネスアイデアを考えた。
ルワンダは人口約1,230万人(2018年)。外国からの投資が増えたことなどから、近年は高成長が続いており、2019年は10%を超える経済成長を記録した。
世界銀行
一方で、全人口の39%が貧困ラインを下回る生活を続けている。とくに農村部では農家1軒あたりの耕作面積が限られ、現金収入を得る手段はほとんどないと言っていい。
キガリ市内で企業やマーケットを視察する中で山田さんが注目したのは、イミゴンゴと呼ばれるルワンダの伝統工芸品だ。
幾何学模様が印象的なイミゴンゴのおもな材料は、牛の糞だ。模様をつけ、乾燥と塗装を繰り返す。
キガリ市を拠点とする有力スタートアップのオフィスにも、カラフルなイミゴンゴが飾られている。
「イミゴンゴをビジネスにできないか」。山田さんは、こう考えた。
イミゴンゴで、ピアスやイアリングなどのアクセサリーをつくり、日本で販売する。収益は、ルワンダの農村の人たちに還元をする。
山田さんは、起業体験プログラムの参加者らにも繰り返しアイデアを話した。
動くと仲間が増える
早稲田大でビジネスを学ぶ大下直樹さん(22)は話を聞くうちに、山田さんを手伝うことにした。
大下さんは大学でビジネスプランをつくる経験はしていたが、もやもやした思いが残っていた。
「頭の中でビジネスプランを描くだけじゃ意味がない。どんなに小さな形でもいいから、まずは市場に出して、やってみることが重要だってずっと思っていた」
山田さんが思いや構想を話すと、大下さんはその内容を書き出し、思いを形にするには何をすべきか具体的なアクションを考える。
山田さん、大下さんらは片道3時間かけて、イミゴンゴを制作する農村も訪れた。
実際にプロジェクトを形にしていくうえで、どういう工程でアクセサリーなどをつくり、目の肥えた日本の消費者も納得する製品にするか。
知恵を出したのは、参加者のひとり中川浩司さん(40)だった。中川さんは、素材メーカー大手AGCの開発や企画部門で15年以上の経験を重ねてきた。
素材としてはもろさもある牛の糞を、日常で身につけるアクセサリーにするには、どんな工程でどんなコーティングが必要か。より美しい製品に仕上げるには、レーザーをどう使うか。
中川さんは、詳細な作業手順書をつくり、イミゴンゴのピアスの品質向上を図った。
「高校生がなにやってるのかな?ぐらいの興味で参加したんですが、結果的にこちらもはまってしまった。いつの間にか仲間が増えている。山田さんは、ワンピースの主人公ルフィみたいだ」
感染症をどう乗り越えるか
日本に帰国してからの山田さんの行動は素早かった。
3月下旬には、約110万円を目標にクラウドファンディングで資金集めを始めた。
山田さんは、「資金提供を呼びかけるため、You Tubeやネットメディア、地元紙、地元のラジオに連日のように登場した。結果、目標額を超える資金が集まった。
しかし、目の前には巨大な壁がある。世界中で感染が広がる新型コロナウイルスだ。
2020年5月6日の時点で、世界中で人とモノの行き来が最小化されている。以前の水準に戻るまでには、どれだけ時間がかかるか、見通しは立たない。
イミゴンゴをビジネスとして成立させるプロジェクトも、しばらくは足を止めざるを得ない。中川さんが言った。
「ルワンダで製品をつくり、日本まで運び、どう売っていくか。ビジネスとして成立させるには、課題が山積みだ」