植民地時代に収奪した美術品、欧州からアフリカへ返還の流れ

アフリカの文化財について、専門家は「ほとんどがアフリカの外にあり、アフリカには何もない」と指摘する。

2019年11月、その植民地時代に収奪されたアフリカ文化財をめぐって、いくつかの動きがあった。

フランスはセネガルにサーベルを返還

フランスは、セネガルへ文化財のサーベルを返還した。

アートを専門とするメディア「アート・ネット」によると、フランスの内務相がセネガルの首都ダカールを訪問し、セネガルの大統領マッキー・サルにサーベルを手渡した。このサーベルは、セネガルの軍事リーダーであったトール(Omar Saïdou Tall)の物だった。1893年、フランス軍との戦闘の際にフランスが接収したものだ。

外務省のデータによると、セネガルは18世紀にフランスの植民地となり1960年に独立した。独立から約60年後の返還となる。

しかし、今回の返還は5年間限りの期限付きの返還のようだ。

現行のフランスの制度では基本的に所蔵品は譲渡ができず、時効のない所有権で保護される。フランス議会で返還法の制定を進めてはいるが、すぐに全て返還できるわけではない。

フランスには約9万点のアフリカの文化財が保管されており、ほとんどが植民地時代に収奪されたものだ。こうした文化財の大部分はパリのケ・ブランリ美術館に収蔵されている。

マクロン大統領の発言

フランスのマクロン大統領は2017年にブルキナファソを訪れた際、「アフリカの遺産は一時的もしくは恒久的にアフリカへ返却する」とのスピーチを行い、話題を呼んだ。

その1年後、マクロン大統領の指示で作成された専門家のレポートが発表された。「植民地時代に同意なく奪った物は要求に応じて返還すべきである」との内容であり、各地の博物館に衝撃を与えた。

ニューヨークタイムズの報道によると、フランス政府はアフリカ各国からの返還要求を順次検証するとしている。しかし、レポートの公表から1年がすぎたが、実施されたのはセネガルへのサーベル返還の1件だけだ。

またフランスの文化相によると、アフリカの国によっては返却ではなく長期貸与を望んでいるケースもあるという。こうした国は、返還よりもむしろ、博物館運営のトレーニングや保存維持、資金援助、博物館建設支援を求めているという。

世界の流れ

フランスの動きはイギリスやドイツといった旧宗主国にも影響を与えた。

ニューヨークタイムズの報道によるとドイツでは2019年、旧植民地から収奪した美術品の返還についてガイドラインを作成し、返還に必要な予算を設けた。ドイツの文化相は「歴史的な責任に向き合わなければならない」と語っている。

イギリスの博物館は、7万点を超えるアフリカの文化財を所蔵している。イギリスの制度では所蔵品の所有権を放棄することは出来ず、返還ではなく、博物館建設に関する支援とセットでアフリカ側に貸与をするという。

ジョージ・ソロスも

著名な投資家ジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ財団は11月、アフリカの文化財返還の支援に4年間で合計1500万ドル(約16億円)を拠出すると発表した。

植民地の負の遺産は人種差別と権力の不公平さを固定化しているとし、「公平性という我々の使命として、歴史的な間違いを正したい」と財団は述べている。

ヨーロッパの旧宗主国の博物館に展示されている収奪品は、多くのアフリカ人は見ることが出来ない。今回のプロジェクトは、アフリカへの文化財の返還は「歴史を正すこと」だけではなく、次の世代のアフリカ人が自分たちの資産へアクセスできるようにするという目的も掲げている。

マクロン大統領のレポートをつくった専門家の1人、サール(Felwine Sarr)は同財団のスタッフでもある。

法律に縛られて動きの遅い政府より、民間サイドの動きが加速するかもしれない。

ケンブリッジ大はニワトリの像を返還

11月にはイギリスのケンブリッジ大学が、英国領時代の1897年に当時のベナンから接収したブロンズのニワトリ像を、ナイジェリアへ返還すると発表した。

学生団体からの提言をきっかけに、ケンブリッジ大学が3年かけて議論を重ねた結果、返還が決まった。

大学の発表によると、まずこの像の所有権の確認から始まり、ベナンから奪われ大学へ寄贈された経緯を確認し、現在のベナン宮廷(ベナン国とは別物)の所有だと結論づけた。いつ、どのように返還するかは未定だ。

このプロジェクトでは、当時奴隷貿易で財を築き、多額の資金援助によって大学の発展に寄与したパトロンの存在についても説明している。

「歴史を葬り去るつもりはない」と明言したケンブリッジ大学は、奴隷貿易と大学への資金援助の関係について、あらためて調査し、記録に残す取り組みを始めている。

アフリカへの文化財の返還は「盗んだものを返す」という以上の意味があるようだ。

奪われた歴史、文化、尊厳を次世代のアフリカに返すという意味も持つ。

植民地アフリカと奴隷の存在を下支えとして繁栄したヨーロッパ各国は、あらためて過去と向き合おうとしている。

プロフィール:Risa Shimowada
東京タワーの麓でアフリカとメンタルヘルスと色々のごちゃ混ぜカフェBlue Baobab Africa ブルー バオバブ アフリカをやっています。アフリカや本、語学に興味があります。

参考にした情報

“France Returns to Senegal an 18th-Century Saber That It Looted During the Colonial Period”, artnet, 2019, Nov 18

”セネガル共和国(Republic of Senegal)基礎データ”、外務省

https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/senegal/data.html#01

“Legacy of Slavery Working Party recommendations”, Jesus College in the University of Cambridge, 2019, Nov 27

https://www.jesus.cam.ac.uk/articles/legacy-slavery-working-party-recommendations

“France Vowed to Return Looted Treasures. But Few Are Heading Back.”, The New York Times, 2019, Nov 22

“Open Society Pledges Support for African Cultural Heritage Restitution”, Open Society Foundations, 2019, Nov 12

https://www.opensocietyfoundations.org/newsroom/open-society-pledges-support-for-african-cultural-heritage-restitution

Photo by Oladimeji Odunsi on Unsplash