”援助”から”ビジネスパートナー”へ 変わるアフリカ会議の位置づけ

2019年8月28日から30日までの3日間、横浜で第7回アフリカ開発会議(TICAD VII)が開かれる。

アフリカ諸国の経済成長を背に、日本ではなくアフリカでいきなり起業するスタートアップ企業が現れるなど、近年はビジネスの面で注目が集まる。

しかし、初めてアフリカ開発会議が開かれたのは、四半世紀以上前のことだ。会議の位置づけは、会を重ねるごとに、少しずつ変化を遂げてきた。

初回は冷戦終結後まもない1993年

TICAD Iが開かれたのは、1993年。当時は、細川護熙内閣の時代だ。その2年前の1991年には、ソ連が解体し、冷戦が終結した。

冷戦の集結に伴いこの時期のアフリカでは、長期の内戦が続いていたアンゴラやモザンビークで一応の停戦合意が交わされている。

当時の国会の会議録などからは、経済成長を遂げるアジアやラテンアメリカ諸国と比較して、停滞するアフリカに対して、さらなる援助、国際社会の関心が必要だとの問題意識が強調されている。

政策研究大学院大学(GRIPS)東京大学東洋文化研究所がウェブ上で公開しているデータベース「世界と日本」では、2018年の閣僚会合までの、首相の演説や全体会合の宣言などの資料がまとめられている。

「国際社会の関心を呼び戻す」

TICAD Iの「東京宣言」は、冷戦後の日本とアフリカの新たな関係構築を目指すものと読める。

冷戦の終焉と共に、今日、アフリカ諸国及び国際社会は、活力ある開発協力の必要について、より幅広い共通の理解を共有する機会を得ている。アフリカ大陸の開発は、より良い未来を我々が模索するにあたっての命題として姿を顕してきた。

アフリカ開発に関する東京宣言 21世紀に向けて(TICAD I)

2003年に開かれたTICAD III当時は、小泉純一郎首相の政権だった。小泉首相は、「冷戦の終結後、国際社会の関心がアフリカから離れる中で、国際社会の関心を呼び戻すことを主要な目的として、TICADは、ここ東京で誕生しました」と述べている。

93年の東京宣言の時点でも、アフリカの開発において、民間セクターが重要な役割を担いうる点について言及がある。

民間セクターは持続可能な開発の原動力として極めて重要である。我々、TICADの参加者は、外国からの援助は開発に影響を及ぼすものの、その役割は規模において補完的なものであり、また性質において触媒的なものに過ぎないことに同意する。我々は、政府と民間セクターの実効的かつ現実的な協力が、開発の一つの重要な要素であることを認識する。

アフリカ開発に関する東京宣言 21世紀に向けて(TICAD I)

一方で、2003年の「TICAD10周年宣言」では、民間セクター、民間企業の重要性などについては、ほとんど触れられていない。宣言中の以下の部分に、わずかながら、民間セクターが登場する。

TICADプロセスは、アフリカ諸国、アフリカの地域機関、アジア諸国、ドナー国、国際機関、さらには民間セクターやNGOを始めとする市民社会など多様な開発主体の積極的な参画を得ている独自の国際的枠組みである。この幅広い連帯はアフリカ開発のためのパートナーシップを広げ、発想を豊かにし、開発のための資源をより大きくしている。

TICAD10周年宣言

TICAD Vからビジネス面強調

2018年10月に開かれたTICAD閣僚会合。記者会見で発言する河野太郎外務大臣。

2013年のTICAD Vでは、本格的にビジネスの側面が強調されはじめている。

経団連主催の交流会で、安倍晋三首相が次のようにスピーチしている。

今、日本企業は、多様なビジネスチャンスが生まれつつあるアフリカに熱い視線を注いでいます。アフリカには、豊富な資源があります。広大な土地があります。中間所得層が急成長する巨大な市場があります。そして、何より、アフリカは自信と希望に満ちています。

TICAD V 経団連主催交流会 安倍総理スピーチ

アフリカからは、日本企業のアフリカ進出に期待が寄せられています。日本企業には、アフリカの能力強化、産業発展に貢献できる技術やノウハウがあります。日本の経済成長を牽引した日本企業の経験と知恵は、必ずやアフリカの潜在性を開花させることでしょう。開会式でも申し上げたとおり、政府はその触媒としての役割を果たしていきます。

TICAD V 経団連主催交流会 安倍総理スピーチ

93年の時点では、「国際社会の関心が離れていた」とされていたアフリカの位置づけは、2016年のTICAD VIの「ナイロビ宣言」では大きく変化し、「世界経済の重要なプレーヤー」とされている。

我々は、アフリカが今や世界で最も経済成長の速い国々の大部分を擁するダイナミックな大陸であることを認識する。このことは、低所得国から中所得国へ発展した国々の数の増加につながっている。同大陸は、豊富な天然資源と、2050年には最大で20億人に到達すると推定される急速に増加する人口を擁している。我々は、特に、中間層の成長を認める。それによって、アフリカは世界経済の中で重要なプレイヤーとして位置づけられる。

TICAD VI ナイロビ宣言:アフリカの持続可能な開発アジェンダ促進 繁栄のためのTICADパートナーシップ

TICAD VIIを前に、2019年6月には、投資とビジネス関係促進を目的に「アフリカビジネス協議会」が設立されるなど、さらにビジネスの面が強調される内容が想定される。

参考にした情報

政策研究大学院大学(GRIPS)東京大学東洋文化研究所、データベース「世界と日本」TICAD(アフリカ開発会議)関連文書ttp://worldjpn.grips.ac.jp/documents/indices/ticad/index.html

外務省ウェブサイト「第7回アフリカ開発会議(TICAD7)」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/ticad/ticad7/index.html